ALWAYS ON MY MIND

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母や大きい姉たちが、暮れかけたテラスの揺り椅子で、マリア・カラスの、「私の名はミミ」のアリアのあるレコードをかけてお茶を飲んでいた。私は母の膝にもたれて、みんなにアフリカ砂漠の話を聞かせた。 ぽつぽつ降り出していた雨がいきなり激しくなって、それから二時間ばかり、滝のように降った。 「雨は恵みだわ」と、私の髪を撫でながら母がつぶやいた。 私の家族はみんなスコールが大好きだった。気温が下がって、空気がきれいになるし、お庭の木々が、みずみずしく生きかえるからだ。 「この雨では、たぶん西の地区は洪水だろう」と、家の使用人たちは言い交わしていた。 そのとおり、あの大雨は、滞積したヘドロに邪魔されて海へ流れ込めず、行き場をなくして溢れた。低地のスラムはあっというまに飲み込まれて、ぼろ小屋も家畜も、ゴミの山も、きれいさっぱり海へ流された。 「雨は祝福だ」と、島の住人は、しみじみと感謝の十字を切った。 避暑客達は、水が引き始めると同時にそそくさと都会へ引き上げた。洪水の後には激烈な伝染病が流行する。西の女達が赤ん坊を抱いて、「この子はもう死ぬ。どうぞ食べ物を分けてくれろ」と、それぞれの屋敷の裏口にしつこく押し寄せて来るのが分かっていたからだ。 次のクリスマスに島に来た時、ホセの住む地区は、さすがに規模が小さくなって、川から少し離れた場所に移動していた。     
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