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彼らの家は拾い集めの看板や、放置されたままの屋敷から勝手にはがして来たドアや窓枠で出来ていて、組み立て式で軽便で、台風や大雨の後は移動式サーカスのテントみたいに、しょっちゅう場所を変えていた。
クリスマス・イブの朝、ホセが、いつものようにこっそり裏庭から来て、ガラス窓をこつこつ叩いた。
私は、大きくなった小鳥がホセの肩にとまっているに違いないと思って、急いで窓を開けた。でも小鳥はいなかった。
「ホセ、あの小鳥を持って行ったの?」と、私は聞いた。
「小鳥?・・・何の小鳥?」
ホセは、小鳥の事なんかもう忘れていた。
青い小鳥は、きっとあの洪水で死んだのだ。
私はがっかりして、少し唇を噛んだ。けれど泣かなかった。
私は、ホセに、赤いリボンをかけた小さな包みをあげた。中身は、秋にロスへ行った時、ディズニーランドで買ってもらった子供用の腕時計だった。
ホセは、「俺、クリスマス・プレゼントもらうの、初めてだ」と嬉しそうに言った。そして、包み紙の赤いリボンを大事そうにほどいて、文字盤にプリントしたミッキーマウスに見惚れていた。
「ホセ、あの小鳥、どこへ行ったんでしょう」
「また、森で、捕まえるさ」と、腕時計を手首に巻きながら、ホセは答えた。
私は二度と、小鳥の事は口にしなかった。
小さなホセに最後に会ったのは、九才の夏だった。
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