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リタは私をお風呂に入れ、遊び着に着替えさせ、髪を梳かし、メイドインUSAの運動靴を履かせようとした。私は青いコンバースを邪険に放り出した。
「ゴム草履じゃなきゃ嫌だ」
ホセが、「じゃあ、その靴、俺にくれよ」と言った。
「だめだよ、ホセ。これは大きい兄さまのお土産だからね。何でももらえると思うんでない」とリタが答えた。
「ホセ、代わりに、あの白いエナメル靴、上げるわ。もう小さくて履けないから」
「いらねえよ、リボンのついた靴なんか」
「でも、あんた、いつも裸足じゃないの」
「いんだよ、俺の足は岩より丈夫だから」
その時、ドアをノックする音がした。ホセはベッドの足元にさっと身を伏せた。
台所女中が運んで来たお盆には、小豆とサツマイモのスープ、二枚重ねのパンケーキ、半茹で卵の朝食が乗っていた。私はカラマンシーのジュースだけ飲んで、残りはホセにあげた。
ホセはスープの中に、パンケーキも卵もバタもぐちゃぐちゃに放り込んで、あっという間に平らげた。
「イビー、早く行こう。蟹が、昼寝に戻っちまう」
「うん。砂浜まで、競争しよう」
私とホセは、裏庭の果樹園の小道を全速力で駆け出した。
乳母リタは、走るのがニワトリより苦手だ。
「イビーちゃま、走るのはお止めなさい」
と言う声を背中に聞きながら、私とホセは走った。
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