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ドイツ人の小父さまは従僕の手から硬貨を掴むと、近い海面にばらばらと何枚かを投げた。同時に裸の子供たちが、光のように水に飛び込んで行った。小父さまは面白がって、次々にコインを海に撒いた。子供たちは、木船の縁に鈴なりに立って、もっと投げろ、もっと投げろ、と叫んでいた。
その中に一人、赤ん坊のように小さな茶色の男の子がいた。彼は小鳥のようにすばしこくて、硬貨を取るのは誰よりも上手だった。海面に上がって来るたびに、彼の口は硬貨で一杯になっていた。誰かが、「ホセ、すげえな」と呼びかけていた。
それは心躍るような遊びだった。私もあの子供達に交じりたかった。乳母がしっかり握っている手を振りほどいて、油や野菜屑の浮いている濁った海水に飛び込みたかった。
私は泳ぎは得意だった。水の中でも目を開いていられたし、長いこと潜っている事も出来た。あの鉛色の海の底には、ドイツの小父さまが投げ込んだ硬貨のほかに、船客が風で飛ばされた刺繍のハンカチや、うかつな子供の手から滑り落ちた玩具のジープニーや、大昔に沈んだガリオン船の木切れ、奴隷の櫂、錆びた釘、ぴかぴかのスペイン金貨、銀細工のロザリオなどが、いくらでも落ちているような気がした。
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