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最後のコインを少し遠くの海面にばら撒くと、濃い栗色の髪が一部もう薄くなっているドイツの小父さまは、たちまち興味を無くしたご様子で、「このあたりでは、どんな魚が美味しいのですか」と英語で父に尋ねた。父は、「料理の仕方で、幾分違って来ます」と、やはり英語で答えた。「なるほど」とドイツの小父さまは、うなずいた。
カラバオの引く馬車は、舗装していない道を岬の城に向かって走り出していた。ひどい砂埃で、もう船着場は見えなかった。
次にホセに会ったのは、島の市場だった。
その日は、台所女中がいぶし牛肉の窯から手が離せなくて、私の乳母が買出しのお供を頼まれた。私も市場へついて行った。
夏の間のアレハンドラ城には、数え切れないほどの人数が逗留していて、アマンダ家政婦は目が回るほど忙しかった。でも食料の買出しだけは自分で行かないと承知しなかった。使用人用の別棟には、いつでもうじゃうじゃ人がいたけれど、まともな頭を持っているのはごく少なかったからだ。たとえば、
「ネリー、お使いに行っておくれ。お昼ご飯の、ふかふかパンを五十個、大急ぎで買って来て」
「はい、ミセス・アマンダ」
機嫌良く返事して、朝の九時に出かけたネリーは、村のパン屋から、いつまで立っても戻らない。家政婦とコックはいらいらして、そこいらにいた女中の誰かを迎えにやる、それもさっぱり帰って来ない。家政婦はぷりぷりしながら自分でパン屋へ行く。
「うちのネリー、朝、パン、買いに来た?」
「さあ、来ないよ」
「迎えに、もう一人の女中が来たでしょう?」
「ああ、来た」
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