ALWAYS ON MY MIND

6/25
前へ
/213ページ
次へ
「あんた、前歯、もう抜けたの?」 「うん、奥歯も三本、抜けたんだ」 「あたしもよ、ほら」 「イビー、口から、血が出てるよ」 「ああ、これ、アプリコットよ」 「それって、食い物かい」 「ほら、一つ、あげるわ」 ホセは、赤い果実を受け取ると、ふんふんと匂いを嗅いだ。 「いい匂いだな」 「食べてご覧なさい。美味しいのよ」 「これ、高いんだろ」 「知らない」 「これ、持って帰って、母ちゃんにあげていいかい」 「じゃ、もう一つ、あげるわ」 ホセは嬉しそうに笑って、自分の杏を齧った。 「美味いな」 私は、その言葉が、何だかとても嬉しかった。 家政婦は熱心にスイカを選んでいた。 乳母が、「これ、西のボーイ。イビーさまに馴れ馴れしくしてはいけない。あっちへお行き」と言いながら、ホセを追い払う手つきをした。 西のボーイは追い払われなかった。食べ終えた杏の種を口の中で転がしながら、また話しかけて来た。 「イビー、年はいくつ?」 「六歳よ」 「そうかあ、俺といっしょだね」 「あんた、すごいチビよね」 「うん、でも今に、ナラの木みたいに、大きくなるんだ」 ホセは両手を頭の後ろで組んで、市場の買い物の間、ぶらぶら歩いて付いて来た。     
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加