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「あんた、前歯、もう抜けたの?」
「うん、奥歯も三本、抜けたんだ」
「あたしもよ、ほら」
「イビー、口から、血が出てるよ」
「ああ、これ、アプリコットよ」
「それって、食い物かい」
「ほら、一つ、あげるわ」
ホセは、赤い果実を受け取ると、ふんふんと匂いを嗅いだ。
「いい匂いだな」
「食べてご覧なさい。美味しいのよ」
「これ、高いんだろ」
「知らない」
「これ、持って帰って、母ちゃんにあげていいかい」
「じゃ、もう一つ、あげるわ」
ホセは嬉しそうに笑って、自分の杏を齧った。
「美味いな」
私は、その言葉が、何だかとても嬉しかった。
家政婦は熱心にスイカを選んでいた。
乳母が、「これ、西のボーイ。イビーさまに馴れ馴れしくしてはいけない。あっちへお行き」と言いながら、ホセを追い払う手つきをした。
西のボーイは追い払われなかった。食べ終えた杏の種を口の中で転がしながら、また話しかけて来た。
「イビー、年はいくつ?」
「六歳よ」
「そうかあ、俺といっしょだね」
「あんた、すごいチビよね」
「うん、でも今に、ナラの木みたいに、大きくなるんだ」
ホセは両手を頭の後ろで組んで、市場の買い物の間、ぶらぶら歩いて付いて来た。
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