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スラムのそもそもは、これまで島の共有だった船着場の板が腐っていて、船から下りてはしゃぎまわっていた避暑客の子供が海に落ちた事から始まる。
島には、きちんとした仕事の出来る大工は一人もいなかったので、若い職人が何人か、どこからか呼ばれて、船着場をコンクリートで固めるという近代的な作業に取り掛かり始めた。間もなくその職人の掘っ立て小屋の回りに、煮炊きの煙が上りはじめ、満艦飾の洗濯物がぶら下がり出した。どこからか小船でやってきた女たちが住み着いたのだ。次には職人や女たちの親戚や知り合いが、ぎこぎこ音のする木の船でぞろぞろやって来た。
女たちは毎年毎年、真面目に子供を産んだ。そしてあっという間に、今のスラムが出来上がった。
スラムは年毎に発展していくのに、小さな船着場は何年立っても、永遠に出来上がるようには見えなかった。今日はセメントがない。今日は釘が切れた。雨だから。暑いから。誰かの誕生日だから。クリスマスだから。木曜日だから。とお休みの口実はいくらでもあったし、万事のんびりした島の住人は、別に急かしもしなかったので、どうやら船着場の出来上がった頃には、職人の家族がネズミのように増えていて、その人たちのための住居、傘の代わりにはなる屋根つき小屋が、西側の浜辺を一面に蔽っていた。
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