ALWAYS ON MY MIND

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ALWAYS ON MY MIND

小さなホセに会ったのは島の船着場だった。 私はまだ、小学校に上がる前だった。 モーターボートが船着場に着くと、片目のない老人、いざり、赤ん坊を抱いた物乞い、パンツ一枚の男たちがぞろぞろと集まって来る。彼らはみんな、あかがね色に日焼けしている。 フィリピンを星のように取り巻く何万もの島には、正式な名前のあるものは七千しかない。私の先祖の墓地がある島にも名前はない。周囲十キロのこの小島は私の父の所有なので、近隣の人たちは「アレハンドラの島」と呼んでいる。 島へは、色々な外国人もよく訪れる。乾季のメトロ・マニラから避暑に招待された父の賓客達である。欧米人はみんな珊瑚礁の島に、不思議なほどロマンチックな幻想を抱いているせいか、電気は自家発電だし、電話も通じていないし、ラジオの電波があがあいうだけでほとんど届かないこんな島でも、二週間くらいの不便は平気で滞在している。 その時の賓客は中年のドイツ人だった。 父の従僕が、「サー、このコインを、海へ投げてご覧なさいまし」と言いながら、手のひら一杯のセンタボス硬貨を差し出した。 これは島へ初めて来た方に恒例の、歓迎の余興だった。     
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