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当たり前だけど時間は流れ続けた。悲しいことに一つの命が無機物に奪われることは珍しいことではない。一過性の話題に過ぎず、彼女の周囲の世界的には一部の人たち以外、そんなことがあったことなんか忘れている。それを責める気も嘆く気もない。生きている者には未来なんていうひどく曖昧な要素が付きまとっているために、いつまでも同じ時間に固執することは出来ないのだ。分かってはいるんだ勿論。けれどならば自分もそうでいられるかは全く別の問題なのだ。延々と家に引きこもったりしなかった。新しい人格が出来たりしなかった。いつもと変わらない僕。変わり映えのない日常を変わり映えのない僕が謳歌する。心底くだらないが一番楽な人生の使い方。それで良かった。それで良かったはずなのになんでだろう。今までとなにも変わらないはずなのに、なにか味気ない。どこか満たされない。ぽっかり穴が空いたなんて陳腐な表現を否応無く感じさせられる。ああそうか。なんとなく分かった気がする。こういう気持ちがそうなんだ。 「……好きだよ」 僕の初恋は遅すぎた。
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