誰も知らない恋慕の蕾

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   早朝五時。まだ夜も明けていない十二月の寒さが肌に突き刺す朝。  昨夜の十時からコンビニのレジカウンターの中で突っ立っている俺は、大きな欠伸をした。 駅近くにある為、夜明け前でも人がそれなりにやってくる。「あ、やば」と思ったが、幸い、お客様は誰もおらず、ほっと胸を撫で下ろした。  飲料コーナーの上に飾ってある時計を見て、あと一時間の辛抱だーーと思った時、入り口の扉が開いた。 「いらっしゃいませ」  店に入ってきたのは、自分と同じくらいの女性だった。眠たそうな顔に、膝まである白のコートを着込んで、頬は寒さで赤くなっていた。  ーーあ、今日もか。  そう思いながら、彼女がレジに持ってきた商品のバーコードを読み、表示された合計金額を読み上げる。百二十八円の缶コーヒーと九十八円のチョコ、消費税を入れて合計で二百四十三円だ。  彼女は電子マネーで支払いを済ませた後、俺の「ありがとうございました」に軽く会釈を返し、店を出ていった。  彼女はこの店の常連さんだ。  いつも同じ時間に来て、同じものを買っていく。きっと始発に乗って仕事に行くのだろう。  しかし、彼女が来るのは朝だけではない。  夜の十二時になる少し前当たりにも夕食を買って帰る。それも大体決まっていて、オムライスとサラダ、別売りの安いドレッシングだった。  つまり、俺が働いている数時間の間に、彼女は帰宅して夕飯を食べ風呂を済ませ寝て起きて支度して家を出ているということになる。  目もいつも死んでいるような目だった。  きっと、仕事で疲れているのだろう。  些か、彼女の体が心配になったが、良い大人のフリーター男に心配されても、彼女だって気持ち悪いだけだろうと思い、俺は溜め息を出すだけでやめといた。
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