誰も知らない恋慕の蕾

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   クリスマスイブの夜。毎年耳にするクリスマスソングと漸くおさらばできると思いながら、いつもと同じようにレジ業務をこなしていると、例の彼女がやってきた。  イブだというのに、仕事だったのだろう。今日も疲労が顔に出ていた。聖なる夜にも関わらずデザートも買わず、オムライスとサラダ、そしてドレッシングと、いつもと変わり映えしないものを買って行った。  俺も人のことを言えないが、お互いに寂しい夜を迎えているんだなと、自分と同じ独り身の人を見付け、そう思った。  ーー今日の夜くらいは、一言、お疲れ様です、と声を掛けた方がよかったかな……。  ふと、浮かんだ考えに「いやいやだめだから、それ」と、すぐ様、その考えを否定した。  変に声を掛けて、ストーカーだと冤罪を掛けられたら堪ったもんじゃない。変な気持ちを起こすなよーーそう自分自身を戒め、やたらとカップルが多い今日の夜に虚しさを感じながらも、その後のコンビニ業務に徹した。  年が明け、三が日も過ぎた頃、彼女が慌てたように店にやってきた。時計を確認すると、いつもより数分遅く、始発の時間ぎりぎりだった。寝坊だろうか。  焦りながら商品を選び、レジに持ってくる彼女の姿を見て、いつも買うものが同じなら、レジ後ろに取り置きしておいてあげれば、彼女は喜ぶかもしれないーーと思った。 「……て、あほくさ」  彼女に商品を渡し、「ありがとうございました」と、店を後にする後ろ姿に声を掛け、彼女が見えなくなったと同時に呟いた。    喜ばせてどうするんだ。  いくら常連さんだからといって、特別扱いは良くないだろ。  改めて自分自身を叱咤する。  ーーでも。  疲れている顔以外にも、彼女の顔を見てみたいと思っているのは事実だった。  
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