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その時はまだなき女の顔をしっかりとは見たことはなかった。だからなき女がどんな顔をしていたのか思い出すことはできない。
それ以来、友だちと一緒に遊んでいる時になき女を見かけると、友だちと一緒に、なき女、なき女と囃し立てることが僕たちの遊びの一つとなっていった。
そんなことをしたのも小学生のころまでだ。
6年生になったころのことだ。これもまた友だちのやっちゃんと一緒に学校から帰る帰り道のことだった。僕らの進む道の前方からなき女がこちらに向かって歩いてきた。僕はいつものように囃し立てる準備をしたのだが、やっちゃんは違った。なき女のほうを見ようともせず、僕に昨日の夜見たテレビの話をし続けていた。それを見て僕は急に自分のことが恥ずかしくなった。たぶん、僕よりも先に、やっちゃんは大人になっていたのだろう。
それから僕は、なき女を見かけてもそのまま通り過ぎるようになった。
もうじき中学生になる、というところでやっちゃんが事故で亡くなった。
そして、やっちゃんの葬式でなき女の正体がわかったのである。
やっちゃんの葬式の最中、突然、なき女がやってきて、泣き始めたのだ。
さんざん泣いてそして帰っていった。唖然としている僕に、母が、あれはなき女なのだと教えてくれた。
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