なき女

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なき女

僕が初めて、なき女のことを知ったのは祖母からだったと思う。 昔のことなのでだいぶ記憶が曖昧になってしまっているが、祖母と一緒に歩いている時になき女を見かけその不思議な容貌に、あの人は誰と祖母に聞いたのだ。 すると祖母は、「あれは、なき女だから見ちゃ駄目」と言って僕の手を強く握りしめ、僕を引っ張るようにして、なき女から遠ざかろうとした。 その時の祖母の真剣な顔つきは今でも時々思い出すことがある。幼心にも、なんだか良くはわからないけれども、その場から立ち去らなければいけないのだという気持ちだけは感じとることができた。 それは、幼稚園に行くか行かないかのころの記憶だ。 小学生になって、今度は違う形でなき女と出会うことになった。 友だちのやっちゃんと一緒に遊んでいた時のことだ。アスファルト道路の上でろう石を使って絵を書いていた時、やっちゃんが突然、 「あ、なき女だ」といって立ち上がり、指を指したのである。 やっちゃんが指を指したその先になき女がいた。 そしてやっちゃんはなき女に駆け寄り、なき女、なき女と囃し立て始めた。 囃し立てられたなき女は来た道を振り返り、そのまま立ち去っていった。     
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