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二人は、そのメモの内容に、目を見張った。
全体にぎっしりと細かく並ぶ、神経質な字。
『気がつくと朝』
『田中と飲んだ?』
『エレベーター……× 階段……?』
『離婚届』
様々な言葉。
木下があの事件の前後に記したことは明白だった。
「やっぱり、あの辺から係長に何かが起こっていたんですね」
田中の一言に、島田が相槌を打つ。細かい字を、一文一文、島田は上から指で辿っていく。
『サイン=俺?』
これは、離婚届のことだ。
『弁当→家から出勤、間違いない』
『離婚の理由……?』
だんだん、字が乱れてくる。
言葉の羅列が、どんどん短い文章になり、
『何故、愛子は俺と別れようとしたのか』
『俺が、間違っていたのか』
『愛子と直接会って話し合う方法がわからない』
悲痛になっていく、木下の心の叫びが、それを読む島田と田中の胸に突き刺さっていく。
そして最後、メモの終わりに、やはり小さな字で──、それこそが、自殺の原因なのだと、二人が思わずにいられない言葉が、綴られていた。
『もうひとり、俺がいる。
そいつが俺の幸せを奪っていく』
<終わり>
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