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3・火曜・夕方~水曜・昼
商談が成功し、木下と田中は夕方悠々と社に戻ってきた。
「流石係長、尊敬しますよ」
プレゼンがうまくいき、思ったよりも好条件で取引が成立したことを、二人は喜んだ。
「お前のサポートのお陰だ。今夜一杯、飲みに行こうか」
木下は気前よく田中を誘う。
「ありがとうございます。助かりますよ、給料日前なんでー」
田中のニコニコ顔と一緒に、木下は事務室を出てエレベーターホールへと向かった。右手に空の弁当箱を引っ提げて。
薄暗くなった社の廊下を雑談しながら歩く木下の脳裏に、ふと、今朝のことが思い出される。
(あれは、何だったんだろうな。何かがおかしかったような気がしたんだが……)
それでも、きっと疲れのせいだから飲みに行けば吹っ切れるだろうと、木下はそのことを口に出さず、いつものようにエレベーターに乗り込んだ。田中が隣で、今日の商談の内容を振り返って、べらべらと喋り捲っているが、木下の耳には殆ど聞こえない。
(三階……二階……一階……。ほら、いつもと同じだ。何も、気にすることなどないさ……)
すうっと、浮き上がるような独特の感覚の後、いつもの音。
──チンッ
ザワザワザワと、群集の気配。
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