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顔を上げると、五階のエレベーターホール。
「あれ?」
木下は思わず声を上げた。
辺りを見回せば、明るい日差しに、朝のニュース。それから、事務室へ向かう人の波。
「おはようございます、木下係長。昨日はご馳走様でした?。助かりましたよ」
田中だ。
木下は慌てて、田中を人の群れから、自販機側の空間へ引きずり出した。無理矢理腕を掴まれ、急に荒っぽく扱われた田中は、それこそ目を丸くして、木下を見ている。
「係長、どうしたんですか? おかしいですよ?」
田中の言うとおり、木下は興奮していた。ここ数日、疑問に思っていた、そのことがどんどん真実味を帯びてきたからだ。
「田中、昨日、俺はお前と本当に飲みに行ったのか?」
突飛な質問に、田中は目を見張り、眉をへの字にして、
「何言ってるんですか。行きましたよ! 明日に持ち越すと大変だから、この辺でやめましょうって俺が言うまでずっと飲んでましたよ。帰ったのは日付け変わってからで、マンションまで送ってったら、奥さん酷く怒ってましたよ。大変だったんですから。やだなぁ、係長らしくないですよ、記憶がなくなるまで飲むなんて!」
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