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『どうしたの、何か用?』
妻の愛子の声だ。そっけない上に、怒っているようだ。
遠くで息子の泣き声がする。
『ちょっと今、ご機嫌が悪くて……。あまり待たせるとかわいそうだから、手短にして欲しいんだけど』
離乳食に切り替わったばかりの息子は、よくご飯時にごねて時間がかかるのだと愛子に聞かされていたことを、今になって木下は思い出した。
「あ、ああ。済まない。昨日のことなんだけど、悪かったな。随分遅くまで飲んでしまったみたいで」
木下は田中に言われたとおりのことを、愛子に話した。
『──別に、私はそのことに怒っていたんじゃないわ。前々からの鬱憤が溜まっていたのよ。渡した書類にキッチリ判子押してね。今、家事の合間を縫って荷物を纏めているの。週末には出て行くつもりだから』
「出て行く?! どういうことだ!」
ざぁっと、血の気が引く音がする。木下の携帯電話を持つ右手が、膝が、ブルブルと震えだす。
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