3・火曜・夕方~水曜・昼

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『どういうことって、あなたが言ったんじゃない! 俺の言うとおりに出来ないなら出て行けって。そう言って私を殴ったくせに! だから出て行くのよ。もう、雁字搦(がんじがら)めの生活は懲り懲りなの。勇人は連れて行くから。そのつもりでね。そうそう、書類、忘れられても困るから、ジャケットの内ポケットの中に差し込んで置いたわ。私の判は押印済みよ。あなたの欄記入してね』 「ちょ……ちょっと待て、俺はそんなこと、言った覚え──」  ツー、ツー  愛子が電話を切った。  木下の手から携帯電話が滑り落ちて、屋上のコンクリの上に転がった。  無常に、回線の切れた音が漏れた。 (何が起きているんだ、俺は、何をしたんだ……?)  木下はがっくりと肩を落とし、取水塔にもたれかかったまま、ずるずると座り込んだ。放心状態で空を見上げれば、雲ひとつない、青空。  生ぬるい風が吹く。  木下は無心に、愛子の作った弁当を頬張った。いつもと変わらぬ味。数日前までいってらっしゃいとにこやかに送り出してくれていた愛子の笑顔と、あどけない息子の顔が、木下の身体一杯に広がっていった。
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