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(朝帰りして、愛子が怒っていたらしい。でも、俺は知らない)
(昼に電話したら、いきなり離婚の話になった。でも、理由がわからない)
そこまで書くと、木下はボールペンから手を離した。コロコロコロと、ペンは机の端まで転がり……、落ちた。
両手で頭を抱え、もしゃもしゃと整った髪の毛を掻き毟る。木下の中で、嫌な予感は、得体の知れないものに突き当たってしまった恐怖へと変わりつつあった。ぞわっと、悪寒が走り、足が地面から浮くような感覚。全身から汗が噴出し、喉が枯れた。見開いた目に、メモの字が襲い掛かってくる。
(俺じゃない。誰かが、俺の知らないうちに、俺の振りをして生活してるのか?)
そう、思わずにはいられなかった。だが、
(それじゃ、どうして俺は今朝、二日酔いを? やっぱり、ただ、酔っ払っていただけなのか?)
ぐるぐると思考が巡る。
木下は震え上がった。今日もまた、帰られないのではないか、エレベーターに乗れば、やはり次の日の朝になっていて、それまでのことを覚えていないのではないか。
(何てことだ……!)
ぐしゃぐしゃぐしゃっと、もう一度頭を掻き毟る。すると、木下に一つの考えが浮かんだ。
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