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(俺の、貴重な時間は、一体、どこに消えてしまったんだ。どうしてこんなことに……?)
カランカラン、くずかごに缶を捨てる。
着替えたスーツ、キッチリ剃ってある髭、セットした髪、愛妻弁当。どれも、家に帰らないと手に入らないものばかり。木下に記憶がなくても、間違いなく、木下の身体は、帰宅しているのだ。
昼休みに、屋上で愛子に電話する。
腑に落ちないことだらけで、そして、自分が原因でなぜか離婚することになってしまったことが不可解で、仕事どころではなかったのだ。
電話口の愛子はぶっきらぼうにこう言った。
『今の時間は忙しいって、言ったじゃない。私だって、初めての育児で大変なのよ。わかっていて電話するの?』
やはり、息子の勇人は泣いているようだ。しかし、木下だって差し迫っていた。
「悪いと思ってる。だけど、ちゃんと話をしておきたくて」
『話は、昨日帰ったときにしました。夜中まで長々と。あなただって、離婚届にしっかり署名捺印してよこしたじゃない。私、親に証人欄書いてもらって、今日区役所に出しに行くつもりだから』
「え、なんだって?!」
寝耳に水もいいところ。なんと、自分が署名に捺印までしていたという。もちろん、木下にその記憶はない。
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