1・月曜

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「木下係長、もう社に戻るだけなんですから、いい加減上着脱いだらどうですか。熱射病になりますよ」  社屋までの帰り道、歩道橋の上までやっと昇りきったところ。日が傾きかけて、蜜柑色のヴェールが一時(いちどき)に街に被さっていく。眼下の片側二斜線道路には、ぎっちりとおしくら饅頭するかのように車がひしめき、帰宅ラッシュが始まっていることを知らせてくれる。視界一杯に広がるビルの群れは砂漠の起伏のようにどこまでも続く。木下は一瞬、意識をサハラへと飛ばしてしまったかのような錯覚に囚われてしまう。  歩きすぎてふくらはぎが(しび)れた。木下は(むち)打つように自分のふくらはぎをパンパンと叩き、気合を入れた。 「『会社に戻るまでが営業』、そういう真摯な態度で行かないと。いつどの会社の誰がどこで俺達を見ているか、わからないんだからな」  木下は自分に言い聞かせるように言う。  振り返ると田中は、歩道橋の橋げたの半ばで力尽き、黒い営業鞄を足元に置いてぐんと背伸びをしていた。あーあと気持ちのよさそうなふぬけた声を出し、涙を浮かべてコリコリと肩を鳴らしている。 「係長、真面目すぎですって。どこかで気を抜かないと、今に大変なことになりますよ」     
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