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「これから仕事だ……、落ち着け、落ち着くんだ……」
木下は、手元の白い紙を、折り目どおりにしっかりと折り直し、封筒に入れて懐にしまった。
まだ、胸は高鳴ったまま。
彼は出来るだけ平静を保ちながら、営業一課へと向かった。事務机に辿り着く頃には、顔の赤みも落ち着き、いつもの木下へと戻っていた。机の上に書類を並べ、今日の営業の準備をする。朝礼、ミーティング。彼は何事もなかったかのように仕事を続ける。
それでも、見ている人はきちんと見ているものだ。
「木下係長、ちょっと、いいか……?」
一課の課長、島田が、木下に声をかけた。丁度、田中と一緒に外回りに行こうと営業鞄を持ち上げた時だ。
木下はそのまま鞄を机の下に置き、島田に呼ばれるままに、一課の応接間へと通された。
一瞬事務室内が騒然とするが、木下の耳にそんな様子は届かない。
六畳ほどの室内に応接セット。島田に促され、木下はソファーに腰掛けた。
「何か、あったのかね」
島田は太い声で、彼に尋ねた。
「あ、いや、大したことでは……」
木下は恐縮した。
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