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「原因は、何だね。去年、息子が生まれたばかりじゃないか。これからという時に、愛子君がこんなものを寄越すとは、余程の事情だろう?」
震える木下に、島田はあくまでも優しく問いかける。
「それが……、私にも、わからないんです」
木下はそういうのが精一杯だった。
「わからないって、そりゃ君、おかしいよ。わからないのに離婚届なんて。第一、君のサインもある。わからないじゃ済まされないだろう」
「ところが、わからないんですよ。本当に、わからないんです。いきなり愛子が、こんなものを。それに、私の字で確かに書いてあるけれども、これは私が書いたんじゃありません。覚えがないんです。今週は、ずっと、家にだって帰ってないのに……」
島田はとうとうムッとし出した。木下の言っていることは、どうも辻褄が合わないのだ。
「木下君、私はね、君の真っ直ぐなところが好きだ。自分の主張は曲げない、責任感もある。だが、今の君の発言はいただけないな。矛盾だらけだ。君の字なのに、君が書いてないとは一体、どういうことだね。家に帰ってない? そんなはずはない。君が毎日持ってくるのは、愛子君の愛妻弁当じゃないのかい? 家に帰らず、どうやって弁当を持ってくるんだね?」
勢いに押され、木下は肩を竦めて身を引いた。
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