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島田が怒るのは当たり前だ。自分だって理解できていないのに、木下はその状況を暴露してしまったんだから。
「か、課長、私は嘘なんかついていません。本当なんですよ。嘘じゃない。毎日、帰ろうしても、帰られないんです。家に帰って、離婚届にサインしたのは、私じゃない。私かもしれないけど、違うんです」
木下は、おどおどしながらも、必死に訴えた。課長に信じてもらえなければ、後は誰を頼ればいいんだ、という思いがあった。何とかして、自分の今おかれている状況を理解してくれる人が欲しい、その一心で、島田に訴えかけた。
だが、島田は、そんな木下の気持ちを知らず──、すっくと立ち上がり、こう漏らす。
「木下君、今日はもういい。君に必要なのは、私じゃない。精神科の医師だよ」
島田の言葉は、木下を打ちのめした。
真っ暗な闇の中に放り投げられ、前後不覚のまま、ぐるぐると旋回していく。身体が硬直し、カタカタと壊れたロボットのように震えだした。涙が止め処なく流れ、汗と混じり、鼻水と混じり、顔中を濡らす。
(精神科……、違う、俺は、間違ったことなど、喋ってないのに……)
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