6・週末~

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6・週末~

 そこから先は、木下の記憶が曖昧で、鮮明に語ることが出来ない。  金曜の午前十時過ぎ、木下は早退し、自宅へ向かったと思われる。  土曜日、日曜日と、愛子の通告した家出騒ぎが、実際に行われたらしい。愛子の実家から両親が訪れ、荷物と共に妻と息子を連れ、いなくなった。結婚と同時に買ったマンションの中に、ぽつんとひとり、膝を抱えて座っている、そんな画像が木下の脳裏に、途切れ途切れに浮かんでいた。 「私は、あなたのことを好きだけれど、あなたとずっといることは、私と息子を不幸にする」  愛子の言葉が、木下の耳に残る。  泣きじゃくる勇人の声が、妻と息子を呼び止める木下自身の声が、暗闇の中でこだましていた。  何もない、空っぽの空間に、漂い、沈んでいく。  夏の暑さが見せている、幻影なのだと、木下は自分に言い聞かせた。 (全ては夢、夏の夢だ。俺は家に帰られなくなったはず。愛子にあんなものを突きつけられたから、こんなに怖い夢を見たんだ。いや、もしかしたら、あの離婚届も、夢だったに違いない。夢だ、夢に決まってる。だから、目が覚めたら、元通り、いつもの生活に戻っているはずなんだ──)  *     
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