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入社二年目の田中は、まだ学生気分が抜けないのか、軽々しい喋りをする。木下は、自分も十数年前は同じような──どこかゆるい生き方をしていたものだと思い出す。だが、それはそれ。今、多少なりとも責任のある立場になったからには、そんな気持ちでは到底仕事に向かえないことを知っている。
元来生真面目な木下は、手を抜くことが大嫌いだ。曲がったことも、勿論嫌だ。どんなに苦しくても、彼は自分がこうと決めた道は突き進むし、頼まれた仕事は責任を持って最後までやり遂げないと気が済まない。どこか、潔癖症染みたところがあった。
長所と言えば長所なのだろうが、短所と言えば著しく短所であるこの性格は、結婚しても直らなかった。
三年前に彼は会社の同僚、愛子と結婚した。彼女は仕事を続けたいと言ったが、その意思を無視して無理矢理退職させた有様。木下の中では、妻は家を守るものと言う意識……固定観念がなかなか消えなかった。
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