6・週末~

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 あまりに突然な出来事に、皆胸を痛め、号泣していた。  島田は騒ぎの間ずっと、全身にざわざわと走る悪寒と、痙攣(けいれん)にも似たような震えに襲われていた。週末に、「お前に必要なのは精神科だ」などと無責任に言い放ってしまった自分を、責め立てていたのだ。自分の立場ではあの言葉しか浮かばなかったと、正当化する反面、確実にその言葉が木下を追い詰めたのだとさえ思った。だが、どんなに思いを巡らせても、木下が死んだ事実は変わらない。それが一層、島田を後悔の念に駆り立てた。  葬儀から一週間ほど経ち、木下の机を整理しなければならなくなったその日。  営業一課の事務室の隅、島田は田中と二人で、木下の机を(あさ)った。全ての引き出しから物を撤去し、綺麗に拭き上げねばならなかった。彼の几帳面さが(うかが)える、きちんと整理整頓された引き出しの中身を、分類して数個のダンボールに詰めていく。どの文書にも、彼の綺麗な字でびっしりとメモが書きこまれていて、生前の仕事熱心な姿が目に浮かぶ。  鍵のかかった机の引き出しを、最後に片付ける。遺品から見付かった鍵で開けると、一枚の妙な紙が出てきた。白いA6版のコピー紙、木下の性格を思わせる、裏面再利用のメモ紙。     
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