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2・月曜・夜~火曜・朝
五階の営業一課。
午後七時を少し回った頃、仕事が一段落した木下は、やっと帰る準備を始めた。
田中は、
「係長、無理しないで下さいね。偶には可愛い奥さんと子供のために早く帰ったらどうですか?」
などと彼を気遣い、定時でそそくさと帰っていった。
木下はひとり、営業一課の事務室を後にし、エレベーターへ向かう。
家に仕事は持ち込まない主義、木下の手荷物はいつも、愛妻弁当だけ。空の弁当箱をフラフラと揺らしながら、彼はくたびれた白い壁に囲まれた廊下をずんずんと歩いていく。経費節減で廊下の明かりは御法度。あちこちの事務室から漏れる光を辿りながら進んでいく。じわりじわりと一日かけて熱せられた廊下の空気に、事務室のドアの隙間から這い出してくる冷気が混じった。時折ひんやりと木下の靴下を撫ぜ、足を撫ぜ、消えていく。
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