雨の日

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そして、数日を跨いで、また雨の日がやってきた。 普通なら、今日もまたやつがいるだろう、と思うところだろうが今日は違う。 なぜなら朝から降っているのだ。 朝、傘をささずに学校へ来ないことには、傘を忘れるという事態には陥らない。 さすがのあいつでも、そんな奇行は母親に止められるはずだ。 だから、僕は安心していた。 放課後、そいつの姿を見るまでは。 「よっ!」 回数を重ねるごとに、言葉を短縮してくる。 わかってるよね、とでも言うような顔をして、僕が傘を開くのを待っている。 「いや、今日はおかしい。ありえない」 「何が?」 「どうやって学校来たんだよ! 朝から降ってただろ!」 「んー?」 彼女はとぼけた顔をして、わざとらしく目をそらす。 「……お前、さてはわざとやってるな?」 「わざとだなんて、やるはずないじゃない! 雨に濡れたくないからあなたの傘に入っているのに!」 「じゃあ、そこの傘立てに入っているピンクの傘は誰のだ?」 「えっ!?」 彼女は驚いて振り返る。 そんなものはない、とわかると、ホッとした顔をした。 「嘘じゃん!」 「傘を忘れてきたやつの動きじゃなかったぞ。何を企んでるのか言え」 「むー……」 彼女は口を尖らせた。 「一緒に帰りたかっただけじゃん……」 「は? 僕と?」 「他に誰がいるのさ」 意外な返答だった。 てっきり彼女は僕をからかっているのだと思っていたからだ。 「それで、なんで、僕と?」 「……どうしても言わないと、ダメ?」 彼女は潤んだ瞳でこちらを見た。 そういう顔ができたのかと思えるくらい見たことのない表情に、僕はたじろいだ。 「その、私、あなたのことが――――」 その時、最高のタイミングで落雷音が鳴った。 耳がキーンとなるほどの大音量だったため、彼女の言葉など聞こえるはずもなく、さらに言えば、彼女自身も驚きで身をすくめていた。 「めちゃめちゃ近くなかった!?」 「すっげえ音だったな……」 ふたり並んで空を見上げて、様子を伺う。 雲間に発光はないが、またいつ落ちてくるとも限らない。 「……僕から提案がある。母さんに迎えにきてもらおう」 「賛成……」 僕たちは突然の雷に恐れおののきながら、校舎の中へと帰っていった。
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