津島さんと僕

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「芥川先輩は前世を信じますか?」 津島さんが僕を筆名で呼ぶのは、真剣な話の時だ。 何時かは聞かれると思っていたことだ。 多分彼女も前世の記憶を持っていて、僕が誰かを知っていて、接しているのだ。 でないと、生まれる前からファンという言葉は出てこない。 「僕は信じるよ」 だけど僕は、彼女の正体をよく分かっていない。 前世の知り合いに津島という苗字は居なかった。 「私には前世の記憶があります」 彼女はそう言うと、堰を切ったように話し始めた。 「私はあなたに憧れていました。私が高校生の頃、あなたは自殺したのです。だから、あなたと直接的な関わりはありません。私は作家とはこうあるべきなのだとあなたを見て思いました。けれど結局、私はあなたの名のつく賞を貰うことが出来ませんでした。あなたのことを理解できるのは私しか居ないと思っていたのに」 僕に憧れ、僕の名のつく賞を貰うことが叶わなかった作家。 「津島さんの前世は誰?」 賞が貰えなかったとしても、名の知れた作家である可能性は高い。 僕の苗字が養子になる前の苗字であるように、彼女の苗字もまた筆名と異なるかもしれない。 「恥の多い人生を送ってきました。とても名乗れません」 その聞き覚えのあるフレーズに、僕は全てを悟った。 自分が男として生まれたからこそ、想像していなかった。 「津島さんは、王子様のいないシンデレラ姫かな?」 この言葉に対する反応で全てが決まる。 津島さんは驚いた様子だった。 「――もう、ふたたびお目にかかりません」 間違いない。彼女の前世は―― 「――太宰治」 心中したがる理由もそうとしか考えられない。 「……芥川先輩が『女生徒』を読んでいたとは」 津島さんは喜びを隠せないようで、口元を微かに緩ませていた。 「私の前世は太宰治。本名は津島修治。何の因果か女として生まれました。尊敬する芥川龍之介先生の後輩となることが出来て、嬉しいです。宜しくお願い致します」 深々と頭を下げられて焦る。 「分かったから、顔を上げて」 何だか変な感じだ。可愛い後輩(女)の中身が男だったとは。 「宜しく、太宰」 手を差し出した。 「はい」 おずおずといった様子で握られる。 正直どう扱えば良いか分からないが、当人が幸せそうなのでいいか、と思ってしまう。 津島さんが男でも女でも、僕は構わない。 ただ、津島さんが死なないように見張ろう、と心に決めた。
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