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田舎道を走るバスに揺られて、私、愛花は生まれ故郷の水上村に帰ってきた。
この現代で村の概念がまだ生き続けられているのは、ここが本当に辺鄙で合併するメリットのない土地だからだろう。
誰かの歌じゃないけど、バスは一日一度来る。
その一度のバスだって、乗客はいない。
私は中学を卒業すると同時に上京、都会で大学に通ったあと、事務仕事をしていた。
どちらかと言えば、都会で暮らした期間の方が長いのに、コンクリートジャングルの閉塞感で、私はほとほと疲れ果てていた。
山と野原を抜けて、どこまでも透き通るような青空と緑の絨毯を目にすると、それだけで心が洗われるような気持ちになった。
「みんな、どうしてるかなあ」
私がここへ戻ってきたのは、同窓会の案内が来たからだ。
私の世代は五人いて、その中で、ひときわ思い出に残っている子がいる。
名前をユイという、とても可愛らしい華奢な男の子だ。
爽やかで黒い短髪と日に焼けた肌で、上から下まで黒い子だなあ、と私は思っていた。
まあ、あのころは私も日焼けしていたけれど。
そんな彼のことが私は大好きだったけど、東京に行くことに決めていたため、思いを伝えることができなかった。
この村に残してきた無念なんて、それくらいのものだ。
しかしながら、久しぶりに集まろうと言われたら、気になってしまうのが私だ。
最後に会ったのが中学だったため、私の思い出の中のみんなはその時のままだ。
今はもう立派に大人になって、それぞれの人生を謳歌していることだろう。
バスを降りてしばらく歩くと、ボロボロになった村の集会場があった。
普段は農家のおじさんたちが、役員やら何やらの話をするのに使うらしい。
今日はそこを貸しきって、お酒を飲もうという会だと聞いている。
「お、愛花だ」
「もうみんな来てるよ」
見知った顔のふたりが、集会場の外で煙草を吸っている。
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