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傍若無人とはこのことか
ドアの向こうから呆れたようなため息が聞こえました。
「お前は知るまい。その娘はな、この緑ヶ丘高校に合格した後もお前のことが忘れられず、ずっと探していたのだぞ」
「え……?」
思いがけないことを告げられ将太は驚きました。
「放課後になると正門の脇に立ってな、下校する生徒達の中にお前がいないかと探していたのだ」
「……」
「毎日、日が暮れるまでな……」
「そ、そうだったのか……」
さすがに将太も気の毒になりました。
「それは……知らなかったとはいえ、かわいそうなことをした。すまない」
「オレ様に謝っても仕方あるまい。それにしても彼女は何故お前を見つけられなかったのだろう?」
「オレは毎日裏門を通って通学してるんだ。正門からだと少しだけ遠回りになるからさ。だから出会えなかったんだ」
「そ、そうか……そういうことなら、これはお前が悪いとは言えんな」
魔人は少し毒気を抜かれたようでしたが、咳払いをして気を取り直すと「それでだ」と続けました。
「青春を謳歌したいというならその娘を彼女にしろ。その娘以外は許さん。いいな」
「ま、待て待て、勝手に決めるな。向こうが迷惑するかも知れないだろ。それこそ涼美ヶ原さんのことと同じじゃないか。第一オレはその娘の名前も知らないんだし」
「……砂河優理。北中学出身で1年D組。身長147センチ、体重および3サイズは公開不可、血液型B型」
「その娘のこと知ってるのか? 名前は砂河さんと言うのか……」
「趣味はお菓子作りとサイクリング、得意科目は古文、不得手科目は化学、1年D組での女子人気投票順位は20人中3位、彼氏あり。東中出身1年B組、風間将太」
「勝手に決めるなよ!」
「小僧、この期に及んで何を遠慮している、フハハハハ!」
「してねえって! 人の話を少しは聞けよ!」
「貴様の話など聞く気はさらさらない。で、オレ様が貴様に成り代わって今朝手紙を出しておいた。『君はきっと試験に合格したと信じていました。実はタクシーから君に声を掛けた時からずっと君のことが気になっていたのです。どうか、僕の彼女になって下さい。放課後に正門脇で待っています』という文面でな」
「勝手に手紙を偽造すんなよ! しょっぱい告白までしやがって」
「これから青春を謳歌しようとする男子高校生が細かいことをいちいち気にするな」
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