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「なにやってんの?」
あれはまだ私が幼稚園児だった頃。
「ころんだ」
膝を擦り剥いた痛みを堪えながらも、答えた。
「ほら、たって」
差し出された手を取ったあの日。
「あらったほうがいいよ」
私は恋に落ちた。
「おっはよー!」
何時ものように挨拶する。
「五月蝿い」
一蹴されるのも何時ものことだ。
「朝からご機嫌なーなーめーでーすーかー?」
全力で絡むと、頭を叩かれた。
「殴るぞ」
「もう殴ってるじゃん!」
乙女の頭を叩くなんて……!
心の中で文句を言う。
「誰が乙女だ、誰が」
どうやら口に出していたみたいだ。
「え? 君の目の前に可愛い可愛い沙希ちゃんがいるんだよ?」
無言で頬をつねられる。
「ひっどいなぁ、真幸は!」
そう言いながら、腕に抱きつく。
眉をひそめながらも、無理に振り払わない辺り、優しいんだよね。よく知ってるけど。
「真幸、愛してる!」
「通学路で叫ぶな」
思いっきり頭を叩かれたのは言うまでもない。
照れ隠しというより、近所迷惑だからやめろ、ってことなんだろうな。
「沙希も懲りないよねぇ」
真幸に自分の教室に戻れ、と追い返され、戻った教室。
「何のこと?」
親友の香織は呆れた様子だった。
「真瀬君のことに決まってんでしょ」
一体何に懲りろ、と言うのか。
「あんだけ冷たくされても絡みに行く姿勢が真似できないって話」
冷たくされて無いんだけどなぁ。
「真幸は優しいよ。伝わりにくいけど」
真幸は不器用なだけなのだ。
「知ってる」
あんたから散々聞かされたからね、と香織は困ったように笑った。
「でも端から見たらそう見えないからさ」
これでも心配してんの、と言う香織は何だか少し寂しそうだった。
「私は大丈夫だよ?」
何故か頭を撫でられたが、気持ち良かったので、許すことにした。
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