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「沙希」
珍しく、真幸の方から声をかけてきた。
どうやら職員室の方から歩いてきたようだ。
「真幸?」
手を掴まれて、そのまま手近の空き教室に連れ込まれた。
「空き教室に連れ込むって……! まさか男のロマン的なアレだったり?」
女子の顔をはたいてしまったという少しの罪悪感を胸に、全力で茶化してみる。
「何かあったのか?」
真幸相手だと、私が通常運転じゃないことは、どうしてもすぐにバレてしまうみたいだ。
「大丈夫だよ」
真幸が心配してくれる現実があるということだけで、私は充分なのだ。
「何処がだよ、アホ」
頭を撫でる手つきが優しくて、涙が溢れそうになるのを堪える。
「何もないってば!」
頑張って笑顔を作る。
私は別にお母さんのことなんて、引きずってない。
「そんな顔して何言ってんの?」
呆れたように言いながらも、何処か優しくて。
「真幸はずるいよ」
本当にずるい。
堪えきれなかった涙が零れた。
私が弱っている時、真幸は傍にいてくれるのだ。
お母さんの時だって、真幸は傍にいてくれた。
泣きじゃくる私に約束してくれた。
「ずっと傍にいてやる」
あの約束があるから、私はこうして今も真幸の傍にいて。
大事な人が何時までも傍にいるとは限らないと、知ってしまったから、何度も何度も伝えるのだ。
「でもそういうところを含めて、大好き」
あの日、お母さんに嫌いだと言ってしまったことを謝れなかった罪悪感を抱いて。
「知ってる」
勢いよく、真幸に抱きつく。
「有難う、真幸」
ただただ愚かで、どうしようもなくて、大嫌いな、私を救ってくれるのは、何時だって真幸なのだ。
真幸以外いないのだ。
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