すくわれる

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「救われたいと願うことは人なら誰しもありますよね。救いの形なんて人それぞれです。誰かにとっての救いは、他の誰かにとっては救いではないということは、ざらにあります。これは一人の少年がすくわれた話です。」 『すくわれる』  昔々――と言っても最近の話。 前と同じ出だしだって? 別にいいでしょう、定型句ですよ。 小さいことばかり気にしていると、嫌われますよ? 谷村 浩樹(仮名)という高校生の少年がおりました。 幼い頃に両親を亡くした浩樹は、親戚の家をたらい回しにされていました。 浩樹は、不運な少年でした。 浩樹の周りには、何時だって不幸が溢れていました。 浩樹を引き取った家の人間が、病気になることなんて、よくあることで、厄介者扱いされていました。 不幸中の幸いとでも言いましょうか。 引き取ってくれる人間は、何時だっていました。 この子には、何の罪もない、と同情してくれる人もいたからです。 そうしてある日、浩樹を引き取ったのは、欲塗れの夫婦でした。 不幸に巣食われた浩樹を利用しようと考えたのです。 互いに高額の保険金をかけ、互いが先に死ぬことを望み、浩樹を引き取りました。 最初、浩樹は、そんなギスギスした夫婦関係に、気付きませんでした。 ただただ受け入れてもらえたことを喜んでいました。 愛されていると思っていました。 しかし、ある日、夜中に目が覚めた浩樹は、夫婦の会話を聞いてしまいました。 「何時になったら、あなたは死ぬの?」 「君が先に死んでくれないと困るよ」 「あの子を引き取って、逆に体調が良くなってしまったのよ」 「おや、困ったね。僕もなんだ」 その瞬間、足を掬われたような衝撃を受けました。 愛だと信じていたものは、愛でなく、ただ欲望を叶えてくれるものとしか思われていなかったことに、気付いたのですから。 浩樹は思いました。 この人達の元から離れたい、幸せになりたい、と。
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