夏合宿

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その時に絶対に見えていることを知られてはいけない。 また、声を出してはいけない。これをもし守らなかったら・・・。 「ワッ!!!!」 皆が真剣に聞いていた所で、鈴木さんが突然驚かしてきたのだ。 その場の全員が「ギャアアー」となって、まんまとしてやられ、当の本人は愉快そうに笑っていたよ。 そこで今日はお開きとなって、女の子達は新たに作られた鍵付きの洋室へと戻っていく。 俺達も寝ようと(殆ど雑魚寝だが)畳の部屋の中、それぞれが適当に体を転がした。 はて?何時だろうか。 俺は夜中に目を覚ました。 いつもは朝までぐっすりなのに、途中で起きるのは珍しい。 外はまだ暗く、波の音が耳に入る。 しかし、それ以外の音も聞こえてくる。 「ズッ・・・・ズズッ。・・・ピチャッ。・・・ズズッ・・・ズズッ・・・ピチャッ。」 そんな音が徐々に近づいてくる。 誰かが廊下にいるのか? 何故だろう、立ち上がり確認する気にはなれない。 おかしいのは、周りから寝息さえ聞こえぬ程部屋の中は静かなこと。おまけに妙に寒い。ゾワッというか、一気に鳥肌が立つ様なあの感じだ。 そして音は部屋の前まで来た。 俺は怖くてギュッと目を瞑り、気を抜くとガタガタ震えて歯が鳴ってしまいそうなのを堪えて、じっとしていた。 「スッ、スーーーっ。」 この部屋は和室で、鍵なんかない。部屋の襖が開かれた音がすると、またあの音がする。 「ズッ・・・・ズズッ・・・ポタッ。」 畳が水分を吸い込んだ音がした。 来てる、何かがこの部屋にいる。 それは、入り口付近にいる仲間に近づくとボソボソと何か言っている様だった。 それを繰り返しながら、段々俺に近づいてくる。 俺は怖くて仕方なかった。 見たい気持ちが無いわけではない、でも、見てしまって声を出してしまったら? さっきの鈴木さんの話が頭を掠める。 「ズズッ・・・ズズッ・・・ズズッ・・・ピチャッ。ズズッ・・・」 きた、来た。 その音はもう自分の所へと来ていた。 俺は怖くて必死で寝た振りを試みる。 心臓はあり得ないくらい激しく音を立てている。 「何か」にバレているのではないかと気が気ではない。 そしてその「何か」は俺の顔を覗き込んでいるように感じた。 魚が腐ったよりも遥かに強烈な腐敗臭が鼻を刺激する。 気持ち悪くて吐きそうだった。 助けてくれ。誰か、お願いだから、早く、消えてくれ。
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