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「え~、今日はぁ、グループで、箒に乗る練習をしまぁ~す」
「「「はぁーい!」」」
「ではぁ、マサト先生、お願いしまぁす」
「はい!皆さん!今日もいい天気ですね!」
うわ、暑苦しい感じの先生。
「では、箒の練習ですか、先週練習した通りにやってください!まず、チサト君のお手本から!」
チサト、飛ぶの上手いのかな?
「はい」
冷静だな、おい。
周りを見ると、女の子達がチサトを見て頬を赤らめたり、黄色い悲鳴をあげている。
男子は…言わないでおこう。
ふわっと、箒に跨がる姿は、なんだか王子様みたい。
あ、王子だったっけ。
ビュンッ
え、
「ええ~~~!?!?!?」
ちょ、ちょ、速すぎない?目で追うのに必死だったんだけど!
「はぁ、やっぱりチサト君凄いなあ」
と、横手ホノカがため息をつく。勿論、頬は赤っぽい。
えぇ、ホノカ、あいつの事好きなの?
「じゃあ、皆で練習を開始しましょう!あ!チサト君は、皆に教えててくれるかな!」
「…はい」
何なの?先生のまえでは猫被っちゃってぇー!
「…」
チサトがサクサクと私に近づいてくる。
「な、何よ」
「お前、箒は?」
あ……………
おーかぁあーさぁーまぁーーーー!!!!
帰ったら絶対しばいてやる!
「え、え~っと、わ、忘れちゃったかも?」
「忘れたのか?忘れてないのか?ハッキリしろよ」
「…すんません忘れました」
「チッ…ったく、ほら、貸してやるよ」
「えっ…いいの?」
「貸してやるって言ってるだろ」
「あ、ありがとう」
口は乱暴だけど、やることは優しいのね。
「早く飛べよ」
「あ…」
今まで羽でしか飛んだことないから分かんない。
「ほ、ホノカ~」
「はぁ~、教えてやるよ。ほら、跨がれ」
ち、近いよぉ~。
「腕をしっかり伸ばして、鼻で息を吸って…
そう、ゆっくり。ほら、軽くジャンプだ」
ジャンプ。
トッ
「と、飛べたぁ~」
「そうそう、そのまま…っておい!」
「きゃぁ~!!!!」
飛べた嬉しさで気を抜いてしまった私は、空中で風に吹かれて飛ばされそうになる。
「ホノカ、箒貸してくれ!」
「い、良いけどアイリちゃんが!」
「はやくっ!」
「わ、わかった。…はいっ!」
「ありがと」
タタタ
ビュンッ
「アイリ!捕まれ!」
「で、でも」
「いいから早く!」
そう強く言われて片手で箒を持ち、ゆっくり手を伸ばす。
その時、とても強い風がふいた。
「きゃっ」
パシッ
グイッ
目を閉じていても落ちる感覚も、痛みも感じない。
「あ、あれ?」
目を開けると、チサトの背中にしがみついていた。
「わ、ぅわぁあああ!」
「煩い!叫ぶな。落っことすぞ」
こ、怖っ
「ご、ごめん。ありがとう」
「…」
ゆっくりと降下していく。
トサッ
「アイリちゃん~!心配したよぉ~!」
「ご、ごめん。ホノカ。気を抜いちゃって…」
「あ!」
「こ、こんどは何?」
「ち、チサトの箒!」
…
この後チサトにこっぴどく叱られたのだった。
何故って?
勿論、チサトの箒は粉々になったからだ。
そして、私は気づかなかった。
女子達の視線が鋭く自分に向いていたことを。
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