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再会、そして再失
「…りん!ダーリン!聞いてるの?!」
あぁ、寝てたのか、俺。
「ゴメンゴメン」
「もぉ~、最近ダーリン元気無いから、ララ心配しちゃう!」
別にお前の心配なんてこれっぽっちも要らねーよ。
「はいはい。ありがとありがと」
「うふふ!ダーリンやっと元気出た!」
俺の作り笑いも見破れないやつに分かるわけ無いだろう。
第一、小さい時の結婚の約束を何で今さら叶えなきゃいけないんだよ。てか、俺はした覚え無いし。
…まぁ、爺ちゃんが嬉しそうにしていたから、母さんも勧めたんだと思うんだけど…
爺ちゃんはもう長くはない。
それを皆感じ取っているのだろう。
「はぁ」
キーンコーンカーンコーン
「はぁ~い、みなさぁ~ん。席についてくださぁ~い!」
「「「はぁ~い」」」
「今日は前から言っていた、課外実習ですよぉ~」
先生がそう言うと、あちこち騒がしくなる。
「静かにぃ~。え~と、今日はこれから二時間くらい、町の原っぱに箒で行く練習と、オリジナル魔法の作成を行いまぁ~す」
「「「はぁ~い!」」」
「それでわぁ、スタァートで~す」
ドタドタドタ
…
「チサトくぅーん?皆行っちゃったよぉ?」
そう言われ、ガタリと立ち上がる。
「ダーリンは私と一緒に行くのよね?」
鏡を見てきたのか、髪型がツインからポニーテールになっている。
見られていたのに気付いたララが、
「ダーリンはやっぱりツインテールの方が好きよね!」
と、問いかけてくる。
正直どっちでも良い。
でも、そう答えると不機嫌になるのは見えている。
「あぁ、そうだな」
そう言うと、満足げにニッコリ眩しい笑顔で微笑むのだった。
でも、今ララはもう遠くにいる。
俺は箒に乗るのは誰よりも得意だし、速い。
学校から出た瞬間、魔法の姿眩ましで速攻離れる。
そして自国の森へと入るのだ。
ここに俺と爺ちゃんの秘密基地がある。
爺ちゃんはもう長くはないが、バリバリの現役ではあるのだ。
俺が行くといつも居る。
そう言うところが爺ちゃんらしい。
おっと、もう着くな。
軽くジャンプして降りる。
…
やはりこの森は静かで良い。
いつも通りに、秘密基地へ向かう。
いつも通りの道を、歩いていた…
はずだった。
おかしい。
いつまでたっても景色が変わらない。
木々の一つに付箋紙を張り付ける。
勿論、授業用のやつ。
…
やっぱり。
五分前歩き出して、今、目の前には先ほど貼ったはずの付箋紙の木がある。
何かの魔法か?
あぁ、そうか。
「リフリア」
ガサガサッ
よし、これで良いかな。
リフリアは森の悪戯妖精だ。兎のような姿をしていて、人を迷わせるのが大好きな変わり者だ。でも、名前を呼ばれるとビビって逃げてしまう。基本的に弱い生き物だが、とても可愛いので、無知な人は騙されるのがほとんどだ。
「もうこれも必要ないかな」
そう言って付箋を剥がす。
後ろからまた別のリフリアの気配がするが、騙されたふりをして驚かそう。そう考えていると、
「おーい、ちさとー!」
お、爺ちゃんだ。
爺ちゃんのもとへ走る。
やっぱり今日も来ていたのだ。
爺ちゃんのもとへスピードを上げる。が、
「あれ?」
さっきまでいた爺ちゃんが見当たらない。
「こっちじゃぞぉ~、おーい」
あ、いた。鬼ごっこってところか?
生憎俺はガキじゃないんだ。でも、
何かに引っ張られるようにして、足が動く。
「あれ?」
まただ。
爺ちゃんがいない。
「何だ?」
何かおかしい。
またリフリアか?
いや、リフリアは化ける程の力はない。
第一、この森にそんなにレベルの高い妖精や生き物は居ないはずだ。
いたら俺の頭に記憶が残っているはずだ。
と言うことは…
外部者?
この敷地に入って良いのは青の国の城に仕える者だけだ。
結界のような術も、父さんの魔法で持続されているし。
捕まえるか?
…
「そうしよう」
いつも兄貴達に馬鹿にされているし俺は見返りが欲しく、簡単に決めてしまう。
この判断が、後に大きな問題へと肥大化するのを知らずに。
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