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障子を開けながら、諦めた様な声色が千香の耳に届いた。
「おき、たさん。な、何でもないです! 」
ごしごしと手の甲で涙を拭き、顔を沖田の方へ向け笑顔を作った。
「私はやはり、労咳なんですね。千香さんから聞いていた症状が出てきたなと思っていたら。 」
沖田は千香の目線に合わせて、腰を下ろした。
「こればっかりは、仕方がない。だからどうか、我慢しないで。私に遠慮なく。 」
「沖田さん。ごめんなさ、...私、分かっ、とっ、たのに!なんで、何も出来んのん。なん、の力にも、な、れんのんよ! 」
再び泣き始めた千香を安心させる様に、沖田は千香を抱き寄せた。
「今だけ。ほんの少しの間でいいから。嫌なら、離れてくれればいい。 」
その声は震えていて、流石に沖田も自分が不治の病と分かればどうしようもない不安が胸を占めていた。千香も沖田に身を委ね、胸に縋って。
「沖田さんが...。俺、そんなの一言も聞いてない。 」
女中部屋へと立ち寄ろうとした藤堂が、部屋の中から聞こえてきた会話に、部屋の前で一人茫然と立ち尽くしていた。ただただ、何が起きているのか理解が追いつかない。いつもならすぐに出てくるであろう沖田に自分の断りもなく千香に触れられたという怒りの感情も、この時ばかりは芽生えなかった。
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