国が揺らぐ

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「芹沢さんたちのことは...。仕方なかったとは言いたくありませんが、そういう命が下った故、斬るしかありませんでした。私の病は、恐らく血脈でしょう。仕方の無いことです。 」 「いいえ!沖田さんの病は、咳などの飛沫感染で発症するものです。すれ違っただけでも菌が身体の中に入ることもあります。そして、今の医術では...。 」 「分かっています。治療法の無い病なのですよね。 」 沖田は、話に似合わない穏やかな顔で頷いた。 「兎に角。千香さんはいつも充分に頑張ってくれているんですから、そんなに自分を責めないで。平助も毎日の様に、私に相談してくるんですから。今日はなんだか元気が無かったとか。何か聞いてないかとか。 」 「でも、でも! 」 「病については、私の問題です。あの後松本先生に詳しくお話を聞くと、養生すれば治るかも知れないと言っていました。それに、気は進みませんが豚や鶏を食べると、良いとか...。私はまだ、諦めるつもりはありませんよ。 」 沖田は、自分の病が決して治る事は無い病だということを悟っているのだろう。その心情を思うと、胸が張り裂けそうな程苦しくなった。涙が頬を伝い、しかし、これ以上かける言葉が見つからない。 「ああもう。また泣いて。まるで(わらし)の様だ。 」 そう言って、また沖田は諦めた様に笑う。もう、見ているのも辛い。自分には何の力になることも出来ない。どうすることも出来ないのだ。 「私が、代わりに、ろ、うがいになれば良かったのに...。 」 「そんなこと言わないで。もし千香さんが、そうなってしまったら私は正気ではいられなくなってしまう。 」 途端、沖田の腕が伸び千香を抱き寄せた。 「おき、たさん? 」 以前は、涙が止まらない自分を気遣ってのことだったのに、今回はこれといって意味は無い。それに自分は仮にも藤堂と恋仲なのだから、他の男からこう何度も抱擁を受けるのは良くない。 「離してくださ...。 」 千香は沖田から離れようと、両手に力を込めた。 「どうやら私は、千香さんのことを好いている様だ。平助と恋仲だということを知っていても尚、この気持ちは抑えが効かない。 」 まさかの発言に、千香の抵抗の手が緩み。涙もピタリと止まっていた。 「言うまいと思っていたのに。病の力は凄いなあ。 」
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