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沖田の胸元に当てた手から、どきどきと早く脈打つ心臓が感じられる。頭上から、ため息混じりに言葉が聞こえて。
「あの、沖田さん。そんな風に思って頂けていたなんて本当に有難いと思っています。でも、私には。 」
赤くなった顔では、沖田を見上げることなど到底出来ず。それでも、一応告白を受けたので回らない頭を必死に働かせ、言葉を紡いでいく。
「分かっています。唯、気持ちを伝えたかっただけです。特段、何かこうなりたいとか望んでいることなんてありません。...急にこんなことを言ってしまって驚いたでしょう。すみません。 」
そして千香への抱擁を解いて、背筋を伸ばすと、いつもの笑顔で千香に告げた。
「これからも、兄妹の様な間柄でいましょう。その方が良い。...このことは、聞かなかったことにして下さい。 」
「...は、はい。 」
未だに顔を上げられず、何とか顔を冷まそうと両手で包んでみるも駄目で。
「それッ! 」
「へ!?ほひははん、なにふるんでふか! 」
沖田が両手で千香の頬を包み、唇が突き出る様な顔に変えた。
「相変わらず、面白い顔。 」
「ひゃめてくだはい! 」
「でも、私の手冷たいから丁度良いのでは? 」
確かに、沖田の手は自分の手より冷えていて気持ち良かった。千香は頷いて肯定を表した。けれども、そこから沖田の思惑を読み取ることは出来ないが。
「なら、良かった。...さて、今日もまたお互い隊務に励むとしましょう。切り替えが大事ですよ! 」
沖田は千香の両頬を解放して、立ち上がった。
「は、はい。 」
返事は返すものの、驚きの連続で足に力が入らず立ち上がることが出来ない。千香が立ち上がる気配を感じられないためか、沖田が千香の方をくるりと向いて、
「お手をどうぞ。 」
クツクツと喉で笑いながら、千香に手を差し出した。千香もその手を取り、支えを受けながら何とか立ち上がる。
「...すみません。 」
漸く治ったかと思った赤面が、またも千香を襲って顔を上げられず。
「...こりゃ、平助が溺愛する訳だ。こんな顔を見せられちゃ、男なら誰でも手が出かねない。 」
「え? 」
沖田のぼそりと呟いた言葉に、顔を上げた。何やら藤堂がいつも言っているのと同じ様な言葉が聞こえたからだ。
「いえ、何でも。さて、今日も美味しい食事を頼みますよ。 」
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