国が揺らぐ

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薩長同盟以降、会津と薩摩の関係性が変わってくる。けれど今は、まだ同盟を結んだばかりなので大きく変化は無いだろう。それ以前に、千香が新選組の者だということが知られなければ深く考える問題でも無い。 「いいえ。やはり此方の不注意が招いたことなので、何かお詫びさせて下さい。 」 「そこまで言うなら、お願いしごとか。 」 「はい。...ええと、お侍様はお団子好きですか?美味しいお店知ってるんですよ。 」 「はい。大好物ござんで。ちゅうか、そげんに改まって呼ばなくてもよかどど。おや西郷吉之助と言おいもす。西郷とでん呼んでしてたもんせ。 」 「ええ!さ、西郷さん!? 」 途端、千香は仰け反った。まさか、話題沸騰中の薩長同盟を結んだ張本人に会うとは思っておらず。さらに、後年に残されている肖像画は似ていないという説もあり、それでも特徴は捉えているだろうと思い込んでいたのを見事に打ち砕かれた。というか、薩摩藩の筆頭がこんな風に気軽に出歩いていて平気なのだろうかと心配にもなった。 「貴方の様なお嬢さぁいも知られとうとは、驚きござんで。ああでん、固くならんで下さいね。今おやただの町人として京の町を歩いとうだけなですから。 」 「は、はい。 」 千香はかの有名な西郷隆盛相手とあっては、団子なんぞで許しを乞うなどあっていいことなのだろうかと悩み始めた。 「それでは、案内をたもいやはんか。そん団子が美味しか店とやらに。 」 「...はい。 」 しかしもう西郷に言い出してしまったので、後戻りは出来ない。そう判断した千香は、お千代の切り盛りする団子屋へと歩き出した。
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