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団子屋に着くと、暖簾を潜って店へと入った。
「いらっしゃいませ~。あれ、千香ちゃん。久し振りやね。 」
パタパタと千代が駆け寄って来た。店の中を見回すと以前来たときよりも、客がまばらだった。今日は西郷が一緒に居たので、この方が人目に触れ難いとほっと胸を撫で下ろした。
「本当!久し振りだね。 」
すると急に千代がよよよと泣き真似を始めた。
「...千香ちゃん、この前と違う男連れとる!手が早すぎるわ!ううっ!うちは、あんたのことそんな子に育てた覚えは無いでぇ! 」
「うちかて、お千代ちゃんに育ててもろた覚えないわ! 」
「ふふ。ようできました。さ、あちらのお席座ってや。 」
千代は千香の小気味良い反応に満足気に頷くと、千香と西郷を席へと促した。
「お団子2つ、お願いします。 」
「ほいきた!任せときや! 」
席に着いて早々、千香は注文を済ませた。少しの間、千香の元気良く駆けて行く後ろ姿を見ていたが、ふと気がついて西郷へと向き直り。
「あの...。西郷さん。そういえば私、まだ名前を名乗っていませんでしたよね。では改めて。森宮千香といいます。この度はこちらの不注意で、本当にすみません。 」
「そげんに謝らんで下さい!そうですか。千香さぁと言うのなあ。素敵なお名前ござんで。ちゅうか、先程のお嬢さぁはおもしとか人なあ。ねんじゅああなんですか? 」
西郷は千代の方を見ながら、千香に笑顔で尋ねた。
「はい。本当に面白くて明るくて良い子なんです。 」
千香も西郷に答えるかの様に、微笑んだ。
「はい!お待ちどう様!お団子二つ! 」
いつものことながら出てくるのが早い団子に、幕末も現代も変わっていないのだなあと安心して。
「ありがとう、お千代ちゃん。 」
「いいえ~。そのお侍さんとよろしゅうな。ほな、うちはまた仕事に戻るわ~! 」
にやにやと揶揄う様な笑みを残して、千代は奥へと下がって行った。最早この調子に慣れてしまった千香は、突っ込む気も毛頭無く、西郷に食べましょう、と促した。
「そういえば、千香さぁは買い物の途中じゃったでは?時間大丈夫ですか?夕餉の支度とか。 」
団子を食べ終え、一息ついたとき西郷が切り出した。
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