国が揺らぐ

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「大丈夫です。というか、西郷さんにご無礼な真似をしてしまってここに居るんですから、帰りが遅くとも訳を話せば分かってくれます。 」 「良かった。なら、心配あいもはんね。おいも、時々こうやって息抜きがてらに街を歩いとうんござんで。けれど、話し相手がいなくて寂しかなと思っていたら、千香さぁに会えた。 」 西郷は本当に薩摩筆頭なのかと思うくらい、屈託の無い笑顔を見せた。それでますます、千香の中での西郷のイメージが変わっていく。 「それじゃあ、西郷さんこそお仲間が探しておいででは? 」 「よかんござんで。もしここに来たら、他人のふいをしてやい過ごしもんで。今日くらい見逃して欲しかもですし。 」 「っふふふ!西郷さん、そんなので薩摩の長が勤まるんですか!本当に薩長同盟結んだ人だとは思えません!でも龍馬さんと気が合いそう!というか、龍馬さんだから成功したのかも。 」 余りに西郷が子どもの様にはしゃぐため、千香は自分の立場を忘れて笑ってしまった。 「千香さぁは、坂本のこっぉ知っとうですか? 」 すると西郷は先程とは打って変わり、急に真剣な表情になった。千香はまずい、これ以上はボロが出ない様にしないとと思い直し、 「はい。西郷さんみたいに、街で偶然お会いしました。 」 「そうですか。でんいけんして、薩長同盟に坂本が関わっとうと言い切れうですか。そん場にいた訳でんあうまいし。 」 あ、と気づいたときにはもう遅く。西郷は千香を疑いの目で見ていた。 「ええと。それは、ですね...。 」 西郷を見ることが出来ず、無意識的に目線を泳がせた。自分が未来から来て、歴史を知っているということを話すべきか、仮に話したとしても今日初対面の人間がそれを信じるだろうか、と千香の胸の中で葛藤が続いていたとき。 「そげんに怖がらんでしてたもんせ。先程も言ったでしょう?おやただの町人だと。言いたく無いのなら、言わずとも責めはしません。 」 「本当にいいん、ですか?こんな情報知っている人間をのさばらせたりして。 」 「のさばらせう、なんて面白かちゅうこつを言おいもすね。良かんですど。何故千香さぁがそんこっぉ知っとうのかは、聞きません。もしおいが本当にそいを知う運命なら、またそん機会が来たとき聞けば良かんですから。 」
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