国が揺らぐ

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醤油を買い終え、藤堂と二人連れだって歩いていると傍から声が聞こえ。 「そこの若夫婦、ちょいと休んでいかへんか。 」 千香が若夫婦、という単語にピクリと反応し声のする方を見てみるとえ、と固まった。その呼び込みを無視して早く屯所へ帰ろうとしていた藤堂は、千香が立ち止まったのに気づいてどうした、と声をかけ目線をやると。 「...真昼間から声かけるんじゃねえ!俺たちはそ、そんな...。ッもういい。千香行くぞ! 」 藤堂は急に大声を出したかと思うと、千香の手を取り歩き始めた。ちらりと見えたその顔は赤く染まっており。それもそのはず。その店とは出会い茶屋だったからだ。店に入るということはすなわち、これから自分たちが情事に及ぶことを大衆に叫んでいる様なものだ。現代でいうところのラブホテルなどがそれに相当する。 「俺だって、場所くらいわきまえる...。なんなんだ。昼間から、あんな...。 」 ぶつくさと文句を垂れる藤堂の顔から、未だ熱はひかないらしい。あまりに早い出来事だったので、思考が働かないでいたが千香もようやっと理解した。 「さ、さすが、このじだ、いってそういうのおおっぴらにしてるもんね...。あ、あはは。 」 下を向きながら、もごもごと言葉にならない声を発していると先程まで暗い気持ちでいたことなど忘れてしまった。
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