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「森宮さん。 」
虚ろな目で見上げると、そこには苦しそうな表情を浮かべた沖田がいて。
「お、きたさん。 」
千香は声を絞り出す。
「わ、たし、たすけられなかった。 」
千香の言葉に沖田は黙して。
「せっかく、お梅ちゃんと仲良くなったのに。芹沢さんが優しい人だってわかっ、てたのに! 」
「葬儀を、するんです。芹沢さんとお梅さんの。助けられなかったと言うのなら森宮さんは、出るべきだ。せめてもの償いとして、見送る義務がある。 」
パサリ、と黒い着物が置かれて。
「それを着て、出てください。それと、」
「芹沢さんは、あの時貴方の文で自分がどんな最期を迎えるのかを知ったと言っていました。けれど、それを受け入れるとも。だから、貴方は自分の出来る限りのことをしたんだと、私は思いますよ。 」
ほら、早く着替えて。千香の腕が沖田に引っ張り上げられる。
「分かり、ました。友達なら、仲間なら、見送ってあげなくちゃ。沖田さん着替えますから、出て行ってください。 」
千香の瞳に光が戻り、表情も明るくなってきて。
「すみません。では、着替え終わるまで外でお待ちしています。 」
沖田も、クツクツと笑っていた。千香は着替えを終えると、角屋を出た。屯所へ戻ると、筆頭局長が亡くなったということで盛大に葬儀が行われた。千香の瞳から、ポロリと一雫零れ落ち。そうか。こんな時代があったからこそ。自分が生きていた平和な時代が来たんだ。ならばせめて、生まれ変わったとき。平和な時代で、また友達になりたい。幸せになってほしい。
「でも、死んじゃ、駄目だよ...。 」
零れ落ちた千香の涙を、秋風が攫っていく。
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