220人が本棚に入れています
本棚に追加
芹沢の葬儀を終え、一段落ついたかと思うも、屯所内は不穏な空気が漂っていて。千香は嫌な予感がして、昼餉を終えると部屋に篭り、紙に書き出して新選組史を一からさらっていく。
「今日は九月二十五日。確か近いうちに、何か起こるはずなんだけど。 」
思い出せ、と紙を睨みつける。暫くの間そうしていると、パッと思い浮かんで。
「そうだ!明日だ!でも、何が起こるんだっけ...。駄目だ。思い出せない。 」
ずっと座ったままでいるよりも、何か他のことをしているうちに思い出すかもしれないと思い、千香は屯所内の掃除を始めた。自分の部屋を掃き、大広間、隊士部屋、副長室に局長室。蒲団を叩き洗濯物を済ませ、夕餉の支度を始める。味噌汁を作る間も、煮物を煮る間も、ご飯を炊く間も一向に思い出せず。こんなに思い出せないのなら、其れ程大したことはないのかも知れないと。夕餉を食べている間に、そんな結論に至った。片付けを済ませ、風呂に入ると足早に部屋へと帰る。段々、秋が近づいてきたようで、夜も冷えて来た。縁側を歩きながら、ぶるりと体を震わせた。蒲団には、簡易的にだが自作の湯たんぽを入れてあるため少しは温まっているだろうか。
「こんなに考えても思い出せないんなら、きっと気に留める程のことじゃないんだ。もう寝よう。 」
近頃は色々なことが起き、まともに眠れない日々を送っていたため、久し振りに落ち着いた気持ちで蒲団に入ることが出来た。その晩。千香は夢を見た。目の前で広がる紅。苦悶に歪む顔。はねとぶ首。それは、思わず目を覆いたくなるような惨劇で、その全てが新選組の隊士によって手が下されている。まるで、音の無いコマ送りの映像を観ているかの様に思えて。それでも、肩が震え。今さっきまで生きていた人間の命が失われていくのを目の当たりにし。千香の顔を見た原田がニタリ、と笑う。叫び声を上げそうになったところで目が覚め、バッと半身を起こす。
「いやあ!!...ゆ、夢? 」
しかし。あながち間違いでも無いのかも知れない。これから先も新選組に居るのなら、予期せず人を殺すところを見てしまうかも知れない。そこまで考えると、千香はガタガタと身震いし、腕を抱きかかえた。その直後。ドタドタドタッ!!廊下を駆け回る、無数の足音が聞こえてきた。
「おい。そっちへ逃げた!囲んで一気にいくぞ。 」
最初のコメントを投稿しよう!