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「兎に角、早いとこ江戸へ帰れ。京はな、おめえみたいなのが生き残れるほど甘くねえんだよ。 」
怒りを露わにした土方は、松本に言い捨てて去って行く。松本はただただ俯いて居て。どうしよう。土方はああ言ったけど、一晩くらい泊めてあげるべきなのだろうか。というか何より、話してみたいという気持ちもあるし。と千香はチラチラと松本に視線を送った。
「あ、あの。 」
踏ん切りがついた千香の声に、松本は顔を上げて。
「私は、こちらで皆さんのお世話をさせて頂いております、森宮千香と申します。ええと、土方さんの御親戚でいらっしゃるとお聞きしたのですが。 」
「俺は、松本捨助と言います。先程はお見苦しいところを見せてしまいましたね。 」
松本は、はは...と渇いた笑みを浮かべて。
「いえ。そうは思いません。松本様は、御自分の意志で京までやって来られて新選組に入りたいと仰ったんです。御立派だと思いますよ。 」
松本の姿を見て、千香はこの時代の人間は、何処か芯が強い気がする。自分の中にブレない何かを持っていて。だから、勤皇、佐幕など思想がぶつかったのではないかと思った。
「分かってるんです。歳三さんが私の身を案じて、江戸へ帰れと言っていることも。それでも、どうしても、京で新選組に入って戦いたいんだ! 」
瞳をメラメラと燃やし、いかに自分の意思が固いか松本は思いの丈を語る。
「そんなに強く望んでいらっしゃるなら、土方さんも分かってくださると思いますよ。そうだ!今日は此処に泊まっていってくださいませ。松本様に、若かりし頃の土方さんのお話も伺いたいですし。 」
上手くいけば、土方の弱みも握れてしまうやもしれない。
「良いんですか?御迷惑になりますでしょう? 」
「全然。土方さんは私が説得致しますから!遠く江戸からいらっしゃって、さぞかしお疲れでしょう。しっかり体を休めてくださいな。 」
千香はにこり、と笑う。
「では、御言葉に甘えてお世話になります。 」
松本は三つ指をついて、頭を下げた。慌てて千香はそれを制して、
「頭を上げてください!そんなに畏まらないで、此処を自分の家だと思って寛いでください。お茶、淹れて来ますね。 」
席を立ち、軽く一礼する。襖を開け廊下へ出ると、松本が眉を下げ、
「すみません...。 」
「いえいえ。 」
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