心を尽くして

49/68
前へ
/264ページ
次へ
「驚いていたんだが。 」 「ええ!?本当ですか!?私の目には眉一つ動かしてないように見えましたよ? 」 「よく言われる。 」 感情が顔に出にくい人物なのだろう。千香はほうほうと頷いた。そして普段あまり斎藤と話す機会がないため、配膳しつつも此処ぞとばかりに話をした。ついでに、一月一日が誕生日だと知っていたので遅めの誕生日プレゼントを渡す。 「斎藤さんって、昨日誕生日だったんですよね?遅れてしまったんですが、これ良ければどうぞ。 」 と言って手渡したのは、手縫いの肩掛け鞄。長旅で手に何か持ったままだと、不便だと思ったからだ。 「誕生日?まあ確かに元旦に誕生したが。これは? 」 千香からのプレゼントを受け取るも、首を傾げる。 「ええと、誕生日というのは斎藤さんが仰る通りです。私の生きていた時代では、誕生日にお祝いをして贈り物をするのが習わしなんですよ。お祝いは、忙しいのでまた警護を終えて帰って来てからやりましょう。 」 「そうか...。でもいいのか?お前、藤堂と恋仲だろう。他の男に贈り物なんかして、藤堂が怒らないだろうか。 」 恋仲、というキーワードを聞いて千香はボンッと顔を赤くした。 「だだだ、大丈夫です!斎藤さんはお友達ですし! 」 千香が照れているのを気づいたのか、斎藤はクスリと笑い。 「森宮は、生娘みたいな顔をする。 」 「あ、あったりまえです!私生娘ですからあ! 」 あ、と思ったが既に遅く。何で私斎藤さんに処女宣言してるのよ!!ああ!激しく自分を殴りたい!フルフルと震える拳を何とか抑えつけた。 「これで最後だ。行くぞ。 」 斎藤は千香の大胆発言を気にも留めず、淡々と配膳を進める。さっきの感じでいくと、ちょっと照れてるか、こいつ阿呆だなって思ってるかのどちらかだろうか...。勢いで出てしまった言葉とはいえ、自分の言動に心底呆れてしまう。...もう考えないようにするしかないだろう。斎藤も深く追求してこないし、この後には出立する隊士たちを見送らなければならないのだ。千香はブンブンと頭を振り、思考を切り替えた。ようやく全ての膳を運び終えると、斎藤に礼を言い千香も席に着いた。それから何時もの様に隊士たちに近藤が声を掛け、皆食事を始める。
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

218人が本棚に入れています
本棚に追加