心を尽くして

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一瞬、これは何だと、全員目玉焼きを見て顔をしかめていたが、千香が卵を焼いたものです、と声をかけると徐々に箸をつけ始めた。 「塩と醤油を用意しておりますので、お好きな方を目玉焼きにかけて召し上がってください。 」 千香が言うと、各々好きな方を取ってかけていく。結構醤油派多い。藤堂は、塩派らしく千香と一緒である。それに千香はへにゃりと顔を緩めた。 そうして朝餉を済ませると、隊士たちは各々の身支度を整え屯所を去って行く。千香はその後ろ背を見送りながら、胸の中で祈った。皆、怪我無く健康に帰って来ますように。また、十五日に。急いでいて薄着で表に出て来てしまったため次第に体が冷えて、くしゅんとくしゃみをしてしまう。 「また皆を出迎えなきゃいけなんだから、風邪引かないようにしないと。生姜湯でも飲もう。 」 千香は隊士たちの背中が見えなくなるまで見送ると厨房へ入り、生姜湯を作って飲んだ。しかし、段々と風邪の引き始めの様に喉がイガイガしてきた。ならば、と喉を温めようと、手拭いを首に巻くもあまり効果はないようである。一先ず今日しなければならない仕事はもう無いのだ。疲れている時には寝るに限る。千香は部屋に蒲団を敷くと、横になった。明日には治っているだろうと信じて疑わず。そして意識を手放した。
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